イスラエルとサイバーセキュリティ

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執筆者:手塚 弘章

イスラエル
         

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イスラエルについて

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シオニズム(ユダヤ人の国家を再建し、イスラエル文化を復興しようと言う)運動*1により、元々パレスチナの人達(アラブ系)がいた場所に、73年前の1948年5月にイスラエルが建国されました。しかし、建国では周辺諸国の同意が得られず、国を守るために早くから軍隊を立上げ、強化をしています。

経済的に輸出に頼るには国土の60%が砂漠で天然資源が殆ど無く、国土の広さと人口の少なさゆえに農耕・牧畜に頼ることも出来ないため、国家存続・成長の糧は少ない国民の頭脳しかない状況でした。

そこで「新しいことに挑戦すること、失敗しても同じ過ちは繰り返さないので、何回でも挑戦し続けることは良い事である」というユダヤ文化と、国家と国民を守るために防衛産業に積極的に投資を行い、特に諜報技術に優れた国防軍IDFで培った技術を積極的に軍民転換する政策をとりました。

GDPは世界で30位(2020年時点)ですが、海外含めたベンチャー投資ではGDP当たりOECD加盟国中1位となります*2*3。つまり、最新の技術開発やソリューション開発は、世界的にイスラエルに期待としている証左とも言えます。

スタートアップネーション

昔は生活用水に困っており、車を洗うのは悪とされてきていました。

しかし現在では、イスラエルが面している地中海の海水を真水にする技術で、全く水に困ることなく、逆にその技術を輸出するに至っています。新しい技術領域としては、前記のサイバーセキュリティ、農業技術(淡水化含む)、医療・ヘルスケア技術、自動運転などのITベースの技術に力を入れています。

そのような技術開発に力を入れるため、国を挙げてベンチャー企業を創業するスタートアップ支援のエコシステム確立と、ユダヤ人の起業家精神、そしてサイバーセキュリティ以外も含めて軍用技術を使ったスタートアップ輩出を国策として推し進めているために、結果として現在はスタートアップネーション「イスラエル」という名声を得るに至っています。

インテル社のCPUチップなどはイスラエルの研究所で設計されており、テルアビブの北部ヘルツェリヤにはマイクロソフト社の大きなビルが。

また、テルアビブから離れた南部のネゲブ砂漠の北端ベルシェバにはベングリオン大学を中心に住宅、病院、モールなどのほかに、デル社(RSAセキュリティ)やドイツテレコム社、エルサレム・ベンチャー・パートナ社などとスタートアップを支えるエコシステム企業が集まって一大都市を作っています。

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ただし、2021年4月時点でイスラエルの人口は約934万人であり、ビジネス環境として見たイスラエルの大きな問題点は、人口が少ないために国内にスタートアップのソリューションを拡販するためのマーケットが小さいという事です。

そのために、ほとんどの企業は米国およびEUにマーケットを求めて、投資サイクル(シリーズAやB)で集めたお金で米国やEUに本社を移します。もっとも、ソリューションを購入する側としては、租税条約的には米国に会社を設立してくれることはメリットがあります。

本当にイスラエルは優秀なのか

米国の人口の1.7%しかいないユダヤ人の中には、米国において多くの有名大企業を創業あるいは経営しています。

マイクロソフト元CEOスティーブ・バルマー、グーグル創業者ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、フェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグ、オラクル創業者ラリー・エリソン、インテル元CEOアンドリュー・グローブ、セールスフォース創業者マーク・ベニオフ、デル創業者マイケル・デルほかIT関連でも多くの会社がユダヤの人達によって創業あるいは経営されています。

また、現在のコロナ禍でいち早くイスラエルがワクチン接種を行ったことはご存じの通りですが、ファイザーCEOのアルバート・ブーラもユダヤ人経営者です*4。

IT業界以外では、スターバックス元CEOのハワード・シュルツ、GAP創業者のドナルド・フィッシャー、ゴールドマン・サックス創業者のマーカス・ゴールドマンなどが該当します。

イスラエルとサイバーセキュリティ

イスラエルは1948年の建国と同時に国防軍IDFを設立しています。その4年後、1952年にはサイバー部隊である8200部隊を創設*5しました。

8200部隊の役割は通信情報の取得と解析、つまり、イスラエルは周辺国からのサイバー防衛を行っていると言えます。防衛のため、孫子の言う「敵を知り己を知れば百戦危うからず」、言い換えると先手必勝を実践しており、サイバー攻撃者は「何をされるのが嫌なのか?」「何をされると困るのか?」を研究開発していると言えます。これこそが、イスラエルが最先端のサイバー防御ができる理由です。

一般的に軍の保有している技術やノウハウは機密情報として厳しく持出を禁止されていますが、イスラエルにおいては軍民転嫁を善とし、スタートアップでビジネスとして活用し世界にアピールすると同時に成長することが国力増強につながる、という考えがベースであり、サイバー領域においてのイスラエルの強みとなっています。(勿論、イスラエルでも最高の軍事機密は持出禁止です)

また、イスラエルでは高校卒業後に兵役義務がありますが、8200部隊は高校卒業時に「数学、技術、言語、チームワークの成績優秀者上位 1%を8200部隊に選抜している」と言われています。従って、サイバーセキュリティに必要な技能や性格を持った人で構成されているのが8200部隊の特徴であり、強いサイバー部隊である背景です。

個人的な話ですが、友人に初期の8200部隊出身者がおり、当時はまだ数十人の部隊だったとのことです。

彼は非常に知的能力が高く真面目な人で、退役後にはイスラエルのサイバー技術を米国と日本に橋渡しをするコンサル的な会社をやっていました。今でも仲良くしてくれる人格者でもあります。また4人の子供のうち3人は彼と同じく8200部隊に入ったそうです。聡明な家族ですね。

このように、人口は少ないながら様々な技術領域で世界の頂点に立とうとしているイスラエルですが、サイバーセキュリティでは当然既にその地位を確立しています。サイバーセキュリティへの取組や、イスラエル企業の発掘に関しては次回以降に述べたいと思います。 

■ 参考
*01    シオニズム - Wikipedia,2021/08/17
*02    イスラエルにおける競争力強化に資する スタートアップ投資に関する調査,2021/08/17
*03    Start-Up Nation ~イノベーション大国 イスラエルへの招待~,2021/08/17
*04    世界を動かす“ユダヤ人”創業企業--次なるGAFAMを生み出すヒントは「イスラエル」に - CNET Japan,2021/08/17
*04    アメリカのユダヤ人で有名人で富豪な人物をピックアップ! | 世界雑学ノート,2021/08/17
*04    ユダヤ人の思考法――地球上の0.02%がノーベル賞の40%を占める理由,2021/08/17
*04    note,2021/08/17
*05    8200部隊 - Wikipedia,2021/08/17